彼女がその名を知らない鳥たち

 沼田まほかる著『彼女がその名を知らない鳥たち』を読む。
この作家を知らなかったので、文庫でちょっと恋愛小説をと思いタイトルが良かったので買った。
帯は女優の黒木 瞳が、「これは、なんやねん!読者を嘲笑い、期待させ、高揚させ、そして裏切り、ど突き、はり飛ばす。私を吸い尽くしたエンターテイメント小説。」と書いている。
 
 男運のない主人公の十和子が、中年の不躾で繊細さとはかけ離れた風貌の陣治と出会い、一緒に暮らす。新しい恋人、水島が現れるまで小説は、淡々と失恋の痛手から逃れられない不甲斐いない十和子の生活と陣治に対する軽蔑感を表している。
 レビューにもあったが、この小説は爽やかなところが終始ない、とあった。私の好きな作家、小池真理子の小説は、そうではない。爽やかとは言いにくいが、耽美というか美しさがある。それは、多分に風景描写が関わっているように思う。沼田まほかるの小説は舞台が大阪が多いらしい。この小説も大阪だ。大阪に住む私自身が思うナカナカ素敵は情景描写を表す場所は浮かばない。

「広告塔やビルの壁面でイルミネーションが明滅しはじめているが、まだ昼の光が残っている。光も闇もチャイナ・ブルーの青に溶け合ってしまう時間だ。水島が最初の一段を下りたとき、こちらに背を向けたその肩越しに、街並が薄赤い炎に包まれて音もなく燃え上がるのが見える。炎は石段の下あたりから視界の彼方までを一瞬でのみ込んだようだ。屋根瓦や電柱や看板が一面に燃えながら透き通っていく。全部のビルの屋上から高々と火柱が上がる。まるで天上の風景のように美しいと十和子は思う。果てしない砂漠を覆い尽くして、タマリスクの赤紫色の花がいっせいに開いたよう。」

と最後に表れる風景描写も十和子が騙されている水島の嘘話の砂漠の風景にかけて、恨みの炎のように恐ろしさを表している。

しかし、ラストは読者は必ず涙する。

「これを恋と呼ぶのなら、私はまだ恋を知らない」と解説にも記しているように、読者は必ず衝撃を受けるはずだ。

真実の恋とは、苦しく、痛い、ヤバイ、凄い。美しさとは、ほど遠いものかもしれない。
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by mizunoawa921 | 2012-10-20 11:52 | 雑記 | Comments(0)