最後の冒険家

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 石川直樹著『最後の冒険家』を読む。
熱気球の滞空時間と飛行距離で世界記録を樹立、ヒマラヤ8000m峰超えも達成した神田道夫。
2008年に自作の熱気球で太平洋単独横断に挑み、海上で消息を絶った。
 著者は太平洋横断に挑んだ神田のパートナーでもある。神田道夫の軌跡を追ったノンフィクション。
石川直樹の文章は、とても上手い。簡潔で客観的な描写とノンフィクション作家らしく、自分の体験から出る自然体の言葉で読者にリアリティを感じさせる。
 「こうやって人は死んでいくんだろうな、と思った。自ら命を絶とうとしているわけではもちろんないし、病気にかかっているわけでもない。ビルの屋上などにある貯水槽を改造したクリーム色のタンクの中に入って、ぼくは冬の太平洋の真ん中を漂っている。上のあるハッチの隙間から時々海水が入ってきて、溜まった水がタンクの底の方でちゃぷちゃぷと不快な音を立てている。」

 神田の公務員として平凡な人生、音楽や嗜好から普通のオジサンに思える人となりとは世を忍ぶ仮の姿であり、気球は自らの生と直結するアイデンティティそのものだった。

 最終章には、冒険論と共に人間はどう生きるべきなのか?という問いに深く言及している。
「地理的な冒険が消滅した現代の冒険とは、この世の誰もが経験している生きることそのものだとぼくは思っている。日常における少しの飛躍、小さな挑戦、新しい一歩、そのすべては冒険なのだ。」
「世の中の多くの人が、自分の中から湧き上がる何かを抑えて、したたかに、そして死んだように生きざるをえないなかで、冒険家は、生きるべくして死ぬ道を選ぶ。ぶれずに自分の生き方を貫くことは、傍から見れば不器用に見えるかもしれないが、神田は本当の意味で生きていたのだ。」
 
 神田道夫の記録的な冒険とは、全くちがうが、私は一歩間違えれば、大怪我、命も落とすクライミングという趣味の道楽をしている。週末ごとに遠征に出かけ、あらゆることを差し置いて、嫌なことやストレスも我慢して、登りに出かける。気が付けば、この道楽は生涯的なものになりつつある。世間的には何もできていない自分の人生をいかがなものかと思いつつ・・・
 解説にあった言葉が胸に刺さる。「空を見上げれば、自分の目の前にある日常が未知の世界に繋がっている。ちっぽけな自分がけれども限りない可能性が見いだされる。」
小さい冒険を繰り返して、私は生きていくのだと、本書を読んで、そう思った。
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by mizunoawa921 | 2015-04-23 00:12 | 雑記 | Comments(0)