2016年 04月 01日
外道クライマー
私は那智の登攀事件が怖かった。軽犯罪法を犯してまで滝を登る彼らが怖かったのではない。事件後、皆がバッシングをしたまるで極悪非道なことをしたかのように・・・クライマーまでも、彼らを擁護したのは、私の周りでは私と私の先輩と友達のアルパインクライマーだけだったように思う。ツイッターやFB、ブログなどあらゆるところでバッシングしたそんな世間が怖かった。
本書は、タイのジャングルでの沢登、台湾のチャーカンシー、称名廊下の遡行、冬期称名の滝、冬期ハンノキ滝登攀などの偉業の様子が鬼気迫る文章力で描かれている。そこには欺瞞も虚構もなく真正のクライマーの姿がある。著者の文才とユーモラスを交えた文章力で読者はクライミングのリアリティの中へ惹きこまれていく。開高健ノンフィクション賞の選評には「なぜそんな危ないことにチャレンジするのか、その根っこにあるモチーフが伝わらない」と評されていたが、それは永遠のテーマであり、そこを物語にし、解説する小説とは違い、本書をクライマーが読めばその理由がわかり得る。角幡氏のあとがきにある「登山の反社会性」について解かりやすく解説されている。
那智の滝事件で、昔、西の方の岩場の開拓者が言っていた言葉を思い出した。冒険とは無縁のスポートでさえ、「岩場は道路や民家の近くに開拓すべきではない。クライミングは山奥でするべきだ。」公のモノではなく後ろめたいものだと言っていた言葉を思いだした。
著者のように自己表現欲求と反骨精神のある若者が、未来のクライマーにも現れるように私は密かに願っている。それが私が思い描くクライマーの象徴だからだと思う。本書の最後の一文に私は感動して読み終えた。
by mizunoawa921
| 2016-04-01 23:29
| 雑記